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XJ6に乗った

佐久間一行の「井戸の歌」が頭から離れずに困っている。

それはさておき、雪の中でメガリ250rを走らせた翌日、「少しゆっくりすっかな」と思っていた昼下がりにいきなり電話で味の素スタジアムに呼び出され、何がなんだか分からないうちにあれよあれよとXJ6に乗らされた。

た、楽しい……。なんかいい……。

オレやっぱこのバイクが好き。のんびりしようかと思っていた矢先にいきなり乗らされたのが、せめてXJ6でよかった。何度も乗っている大好きなXJ6。ああそれなのにそれなのに、XJ6についてこのブログで一度も触れていないことに気付いた。

でもやっぱり書くのはめんどくさい。非常に。とても。果てしなく。どうしようかな、と思っていた時に、この原稿を思い出した。BiG MACHINE誌(2010年6月号)より。


Be Mellow, Go Slow

メロウに、スローに。

Ordinary Short Trip with YAMAHA XJ6

バイクに乗るために、いつも力が入っていた。
無理をしていたわけではない。好きで乗るのだから。
でも、体と心のどこかに、力が入っている。
XJ6は、その力をスッと抜いてくれる存在だ。
僕と彼女は、ゆったりとした気分で、緩やかな1日を過ごす。

Xj6_01

 裸足で歩く人たちがいる。サーフボードを抱え、ペタペタと音を立てながら、日を浴びた舗道を裸足で歩く。ある男は、海から。ある女は、海へ。老人同士が意味ありげに目配せしてすれ違う。無表情のままで。
 スクーターが行く。脇に、サーフボードがくくりつけられている。ウエットスーツにヘルメット、足元はビーチサンダルだ。錆び付いたマフラーからは、ブ、ボ、ボ、といかにも調子の悪そうな排気音。実際、たいしてスピードは出ていない。自転車の方がましだ。
 海沿いの国道は、途切れることなくダラダラと渋滞している。XJ6のクラッチはとても軽い。左手のことを気にせず、穏やかな気持ちのまま、流れ任せにノロノロと進む。車体も軽いから、発進停止がわずらわしくない。軽さは、バイクに乗るうえでの面倒を減らしてくれる心強い味方だ。
 国道沿いのカフェテラスで、赤黒く灼けた青年が2人でビールを飲んでいる。笑顔ではないが、深刻でもない。平日の昼下がりという特権的な時間を、臆面もなく楽しんでいる。僕はシールド越しに彼らを眺める。
 コンクリートの裂け目から伸びる雑草。空中で激しくケンカするトンビとカラス。のんびりと網の手入れをする漁師。潮の香り。すれ違う女子高生の、かったるそうでも若さが隠せない声。
 いろいろなものが見える。聞こえる。感じる。スピードが下がれば下がるほど、情報が多くなる。とても優しい情報だ。ひとつひとつにバックストーリーがあり、僕にはそれらに思いを馳せるだけの余裕がある。情報がひとつ届き、次の情報が届くまでの「間」。
 海には、サーファーがぷかぷかと浮かんでいる。そろって沖を向き、波を待っている。海はほとんど平滑で、ごくわずかな陰影があるだけだ。それでも彼らは、思慮深いアザラシのように、静かに波間に浮かんでいる。
 サーフィンが趣味の友人は、昔、ハワイで大きな波に乗った。チューブの中は、深い青と波の音しかなかった。「とても怖かったよ。自殺願望でもないと、あんな波には乗れないね」
 この海には生ぬるい波しか来ない。友人は言った。「彼らはみんな、ユルユルと波に乗るんだ。目の前に海があって、生活の中に波乗りがある。自殺願望なんて、これっぽっちもない」
「素晴らしい」と僕は言った。「ユルユルと乗り続けられるなら、その方がずっと賢いよ」

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 彼女は、長くレースをしていた。僕にはとても届かないスピードの世界に、彼女はいた。動作はキビキビしていて、物事の準備が信じられないぐらい早い。一緒にバイクで出かける時、僕はいつだって待たせてばかりだが、彼女は特に気にする風ではなく、超然とした様子でタンクの上に両手を置き、黙っているのが常だ。だから彼女がXJ6ディバージョンをユルユルと走らせている姿は、バランスが悪くてしみじみおかしい。
 サーキットを走るレーシングマシンは、サーフィンで言えばショートボードのようなものだ。機敏な動きで、脳と体のすべてをボード操ることに使い切って、初めて達成感が得られる。
 でもXJ6は、ロングボードのように、ユルユルと、賢く乗り続ける乗り物だ。脳にも体にも余裕があって、その隙間に、いろいろな情報が優しく飛び込んでくる。
 彼女は、信号待ちのたびに「私はこのバイクが好きだな」と繰り返す。「なんにも気を使わなくて済むの。なんにも、よ。とても楽で、気兼ねなく乗れる。すごく楽しい」
 僕は意地悪な質問をしてみる。
「君も年を取ったのかな?」
 彼女は少し考えて、「そうじゃないと思う」と真顔で答えた。
「ここは、ストップウォッチしかないサーキットじゃないの。いろんなものがあるわ。私はいろんな所に行って、いろんなものを眺めたり、食べたりして楽しみたい。だけど、今だってサーキットに行けば、ストップウォッチだけあればいい。そうね、時と場合をわきまえる賢さを身に付けたのよ」
 結局のところ、僕と彼女の見解はきれいに一致していた。「いろんなものを眺めたい」。僕もそう思う。あいまいな言葉の中にも、それなりの真実が潜んでいる。
 例えば、目の間を通過していく列車の線路には、柵がない。モーターや、コンプレッサーや、車輪が、リアルな質感とゴトゴトという重低音を放ちながら悠然と移動していく。
 スピードは、遅い。だからいろいろ見えてくる。残酷なまでに、見えなくてもいいものまで。でも、スピードが物事を溶かしてしまうことはない。何を見て、何を見ないか。その取捨選択は、僕たちに委ねられている。
 遅さが見せてくれる世界。それは速さが見せてくれる世界とは、まるで逆だ。何もかもが削ぎ落とされる「速い世界」は、シンプルで、硬質で、ストイックだ。「遅い世界」は、複雑で、ソフトで、快楽的で、広がり続ける。
 雨のしずくは、「速い世界」では硬く、手強い敵だ。「遅い世界」では、シールドに当たる音さえやわらかく心に染みわたる。そうやって僕たちは、いろいろな情報をソフトに受け止めて、何となく走り続ける。
 何となく。でも、確実に言えるのは、バイクに行き先を決められていないことだ。乗っている僕たちが、明確な意志を持ち、どこに行くか決めている。選択は、僕たちに委ねられている。

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 これはとても大切なことだ。僕たちはバイクに乗りながら、バイクに強制されていることが多い。けれどXJ6は何も強要せず、何も押しつけない。バイクから解き放たれている。
 前を行く彼女が、突然何かに閃く。鋭角な曲がり角でサッとウインカーを出し、バイクを素早く寝かし込むと、ためらわずに細い路地へと曲がっていく。瞬間的に静と動が切り替わる。
 彼女が何を見付けたのか、その先に何があるのか、後ろにいる僕には分からない。ただ「何となく行ってみる」というだけだ。特別何かを期待しているわけではないが、少しだけ高揚する。本当の意味での、心のままの自由さ。行き止まりなら戻ればいい。
 入り組んだ細い道は、とても見通しが悪い。止まるか、止まらないかの速度でも、アクセルやブレーキの操作に気を使わずに、XJ6で進んで行く。
 ひとつの角を曲がり、ひとつの坂を越えると、まったく違う景色が展開する。大木がそびえる神社があり、用水路が流れる裏路地があり、ゆるやかに湿った空気があり、霧雨の音がある。
 どれもが弱く、細く、小さく胸に迫ってくる。心に余裕がなければ、見落とし、聞き逃してしまう、ささやかさ。
 高速道路は、僕が先に走る。バックミラーに映る彼女の車線変更は、とても機敏だ。「ロングボードを、ショートボードのように乗る楽しみ方もあるんだ」。友人の言葉を思い出す。
「僕もそうだ。ショートボードのせわしなさが好きだったのに、30歳を過ぎたある時、疲れが楽しさを上回ったんだ。それは急に訪れた。だから今はロングに乗ってる。自殺願望もないしね。でも、たまにはショートっぽくクイックに乗りたい。とても難しいけれど」
 XJ6は、サーフボードより懐が深い。さっきまで裏路地をユルユルと走っていた彼女とXJ6が、高速道路でクイックに車線変更している。緩慢と敏捷の間を、たやすく行き来できる。
 やわらかかった雨滴が、硬くシールドを叩く。もちろん、選択肢は僕たちにある。XJ6は「スピードを上げろ」と背中を押したりしない。「スピードを落とせ」と押さえ込みもしない。あくまでも僕と彼女が、走りたい速度で、走りたいように走ることができる。
 僕たちはバイクに乗りながら、バイクから自由に解き放たれている。何も気にならない。鳥が無心に空を舞うように、走り続ける。とても気持ちいい時間だ。
 バックミラーの中に、彼女がいる。ハーフカウルに伏せたり、伏せなかったりしているのは、退屈している証拠だ。もう少しだけ、速度を上げよう。海も、道も、雨も、夜も、すべてが溶けていく。ただ、僕と彼女だけがいる。

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久々にXJ6に乗った後、この原稿を読み返して、「うん、確かにXJ6との時間はこんな感じだな」と思った。掲載時にはキャッチとして「バイクに乗りながら、バイクから自由でいられる」と書いたんだけど、その通りだ。バイクって実は不自由でやせ我慢が多いんだけど、XJ6は自由な乗り物だ。

ちょっと話は飛ぶ。

メガリ250rに乗ってみて「うーん250も面白ぇじゃねぇか!」と盛り上がったオレは、ホーネット250の見積もりを取ってみた。支離滅裂じゃねーかと。メガリに乗っといてなぜホーネットかと。答は簡単。4気筒が好きだから。

最終型で数百kmしか走っておらず程度極上の車両だったんだけど、ガチャガチャ、チーン! 乗り出し価格、56万円。高! 高ぇよ。プラス20万円でXJ6ディバージョン(ハーフカウル)が買えちゃうよ。つか新車のニンジャ250Rの方が全然安いし。それならニンジャでいいよサムライでクノイチだし。

「おめー、そんなに安いのがいいなら素直にメガリを買えよ」って話だよね。実際マジで「欲しいぜ」と思ってた。だけど、サーキットと公道の両方を走ったら、圧倒的にサーキットの方が面白かったんだよね。それでちょっとさ。

「メガリ250rを走行させる場合、公道よりサーキットの方が面白いのはなぜか」。これは大変興味深いテーマなのでいずれ本欄でも論考してみたいが(カッコいい言い回し)、公道ではやっぱXJ6ぐらいのバイクがいいなー。ホント好き。いいバイクだと思う。

それにしても人見知りのオレが頑張ってバイク屋さんに行って「何かお探しですか」と声をかけてきた店員さんにゲッとビビりながらも何とかお話して見積もりまでもらったんだぜ? 仕事じゃなきゃ知らない人と話せないオレが。その頑張りを高く評価し、このたびあなたは、このボタンにほんブログ村 バイクブログ バイク モータースポーツへを即時クリックすることが決定しましたっ!

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コメント

メガリでサーキットも試乗したんですか!?今サーキットが楽しい125~250のバイクが非常に気になります!インプレ楽しみにしています。
そういえば中野選手とのスラローム対決拝見しました。素直に格好いいですgoodあ、ちょっと信者化してますが引かないでくださいsmile

投稿: 眉 | 2011.02.20 11:29

>眉さん
メガリ試乗は2回で、1回目がサーキット、2回目が公道でした。どちらかっつうとサーキットの方が楽しかったですよ。詳しくは今年中にインプレするつもりがないこともないので、お楽しみにせずのんびりお待ちください。スラローム対決……ってことは、何かのデ、ディ、DVDVDですね!? 自分関連のVDVDVは一度も見たことないです。自分の原稿を読み返すのと同じぐらい、おぞましい……。

投稿: ごう | 2011.02.23 09:51

良いです良いですお気になさらずhappy01
『サーキットが楽しめた』という事だけで充分ですgoodお返事が頂けるだけでありがたいですから。

投稿: 眉 | 2011.02.23 23:08

>眉さん
なにをすっとぼけたこと言っちゃってんスか! 何なら一緒に酒でも飲みますか!? ビール1杯で真っ赤っかになって掌と足の裏がカユくなりますが。

投稿: ごう | 2011.02.26 00:16

恐悦至極にございます!って言っても恥ずかしながら同じく真っ赤になるタイプです。これでは成立しませんかね~sweat01
あ!中野選手の大ファンの女性に例のDVD貸しました!
ん?でも良く考えたらマズかったですかね。

投稿: 眉 | 2011.02.26 05:05

>眉さん
中野プロの大ファンの女性なら、きっと「私、業界の発展のために投資するわ!」と840円を投じて(おそらく)人生初の自分専用ヤングマシン購入、じっくりと熟読したうえでおもむろにP143〜144のアンケート用紙を切り取り、「おもしろかった企画」に(5)BDSS バイクでスポーツする (8)えきぱい (19)Ninja伝説・付録DVD の3つを挙げることを信じて疑いません。

投稿: ごう | 2011.02.26 08:09

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