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浣腸された

入院に際して、オレは1冊の本を持参した。

何でもよかったので、家を出る直前に本棚にあった本をテキトーにわしづかみしただけだ。この何でもない1冊が、オレを救ってくれたのである。

いやぁ、2年ぶりの浣腸ですよ。

……「何年ぶり」とかって語るべきものじゃなような気もするが。

みんなね、浣腸について誤解してる。どうも小学生時代あたりに誰もが楽しんだあのプレイ、両手を組んで人差し指を突き出し、「カ〜ンチョ〜!」「ブスッ」「やめろよ〜」みたいな楽しい思い出があるからか、さらには看護婦さんにそんなことされちゃって何と言うかうらやましいというか悔しいというかジェラシーが働くからか、浣腸にそんなに悪いイメージを持っていないのではないかと思われる。

しかし、昨夜浣腸を終えたオレは、ここに宣言したい。

浣腸をナメるな。

と。

いやまぁ、そういう趣味の人はいるかもしれないが。そもそも、医学的治療的に必要だから浣腸するんだろう。それは理解できる。しかし浣腸未経験の一般市民が一般的に思う、「んなこと言ってるけど、浣腸も実はそんなに悪くないんじゃないのぉ?」という考え方は、明らかに浣腸様をナメていることを、オレは改めて知った。

「では、左を下にして寝てくださいね」
と、彼女は言った。
「はい」
言われるがままに、私は、体の左側面を下にして、ベッドに横たわった。
「次に、ズボンとパンツを下ろしていただけますでしょうか」
「かしこまりました」
彼女の、しゃがみこむ気配がする。
来る。
浣腸様が、やって来る。
「失礼いたします」
浣腸様は、一撃必中の精密ピンポイント爆撃で、一気に突入してきた。
彼女、なかなかの手練れである。
そして何かが、私の体内に、染みこんでくる。
だいぶ長い時間が、経った気がする。
「もう少し、ですから、ね」
「はい。妙に、懐かしい感じが、いたします」
肛門に浣腸様が刺さり、何かが注入されながら、私はそう言った。
「ああ、2年前の記憶ですね」
彼女は、少し朗らかだった。
やがて、ひと仕事終えた浣腸様は、私の肛門から、去った。
と同時に、強烈な便意がやってきた。
トイレに駆け込み、便器に腰を下ろすと、私は、ポケットから1冊の本を取り出した。

ビュアーーーッ、ズドドドドッ、ビリビリッ、ボビッ、ブボッ。

自らが発しているとは思えない轟音が響き渡る。腹の内側を液体が駆け巡りながら、水圧で腸がねじられるような感覚だ。痛い。苦しい。気持ち悪い。おぇっ! 助けて。ぬおおぉぉっ! ほ、ほ、ほん、本の出番だ! 脂汗をかき、脇腹をギュインとつかみながら、懸命に本を開く。助けて。活字がゆがんで見える。去れ! 苦しみよ去れ! 必死に文字を追う。気を失いそうになりながらイメージする。浣腸されて苦しんでるのは、本当のオレじゃない。オレはイギリスの大邸宅にいて、ハウスキーパーとして大富豪に仕えているんだ(そういう内容の本だった)。いてぇ、ちくしょう! イギリスの富豪の金持ちっぷりは、ハンパねぇな! いてぇ! つれぇ! つれぇよ! 何だよ浣腸ってよ! いって……、い……?

……あれ?

訪れた時と同じぐらい迅速に、苦しみは去って行く。割とさっぱりしている。後に残るのは、ぐったりとした疲労感だ。事前に言われた通りにトイレ内のボタンを押すと、「はぁい♪」と看護婦さんがやってくる。「すいません、ちょっと見せてくださいね♪」と、オレのウンコをチェックする。「すいませんは、こっちの台詞だよ……」と、心の底から申し訳なく思う。

繰り返す。

浣腸をナメてはいけない。

今回の入院初夜は、異常に静かだった。夜9時の消灯後は、物音ひとつしない。6人部屋に5人いて、廊下への扉もワイドオープンだというのに、病棟全体に動くものの気配がまったくしないのだ。オレ以外の全員が実はロボットで、消灯と同時に電源を落としているのではないか、と思えるほどの静けさである。

しかし、31分後に誰かがトイレに行き、その気配で別の誰かが目覚めたらしく「ツー、いてぇーんだよなー。イツツツツ」と囁き、その声に反応するかのように他の誰かがいびきをかき始めた。よかった。みんな人間だったんだ……。オレは少し安心して、眠りに落ちたのだった。

ふと目覚めると午前4時。そりゃ9時半頃に寝てりゃ、これぐらいに目ぇ覚めるよな。まいったなもう寝られねえぞきっと。こんな時間に起きててもやることねぇし。静かにしてなくち……。

「おはようございます」の放送で目が覚めた。ラクショーで2度寝してやんの。ねみぃ。ノド乾いた。絶飲食なんだよなー……。

あと4時間ほどで手術が始まる。何も恐れていない。2年前も思ったけど、この病院は本当に雰囲気がいいんだ。

患者つうのは、あーだこーだとわがままを言うものだ。この病院のスタッフの皆さんは、基本的にそのわがままを聞いてくれようとする。病気とはちょっと違う整形外科だから、という面もあるだろう。でも、まずは融通を利かせてくれようとする姿勢が、受付から病棟までまんべんなく満ちているんだ。もちろん無理なことは無理、ダメなことはダメと言うんだけど、その言い方にも思いやりがある。「オレのことを考えてくれている、耳を傾けてくれている──」。そういう空気の中だから、落ち着いて過ごせる。

今日の朝日のように気持ちのいい病院で、整形外科的なプロ・主治医の山ちゃんに身を委ねられるのだから、幸福と言わざるを得ない。

恐れている場合ではない。
行こう。
麻酔の彼方へ。

唯一恐れているのは、万一の際、このブログが「浣腸された」というタイトルで幕を閉じることだ。にほんブログ村 バイクブログ バイク モータースポーツへ

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コメント

はじめましてm(__)m

初めて読ませていただきましたが、表現が面白くて引き込まれてしまいましたw
また遊びにきます♪

投稿: milk | 2010.12.23 23:35

>milkさん
はじまして。下品でくだらないうえにいつ更新するか分かったもんじゃないブログですが、ぜひまたお立ち寄りください。

投稿: ごう | 2010.12.27 17:20

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