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恐るべきMRSA

昨年12月25日、2度目の手術を経て再び退院した。

この正月は相変わらず餅をノドに詰まらせて亡くなった方がいたようだが、ニュースになるのは正月期間限定である。しかし餅を食うのは正月だけではあるまい。「凧揚げ」「お年玉」「年賀状」「餅窒息死」みたいに、正月の風物詩的にこの問題を片付けていいのか! こんにゃくゼリーの立場はどうなる!

オレは餅こそノドに詰まらせなかったものの、それなりの苦難に突き当たっていた。12月18日に髄内釘をブチ込む手術を受けたのだが、退院する25日の朝、回診に来た主治医のY先生が右手をシュタッと挙げて「や」と挨拶したかと思ったら、こう言ったのである。

「創外固定器を外す時、一番下のボルト穴から膿が出てきたんですよ。その膿を培養に回して検査したら、MRSAでした。手術の時に、悪くなってる部分はできるだけキレイに取り除いたし、消毒もしました。でもMRSAだったとはね……(若干残念そうな表情)。MRSAが見つかった傷口には、念のためドレーン(チューブ)を入れてあります。膿とか悪いものを外に出せるようにね」

この時点では、「やれやれ、創外固定器が取れたと思ったら今度はドレーンか」という程度の認識であった。しかし、続くY先生の言葉には、深く激しくげんなりした。

「やれるだけのことはやったけど、もしこの後MRSAが発症して骨髄炎になったら、ちょっとめんどくさいですよ。入れた髄内釘を抜去して、頸骨の上と下に穴を開けて生理食塩水で24時間洗浄すること2週間。MRSAが完全に除菌されたことが確認できてから、もう一度髄内釘を入れることになります。今の時点で発症するかどうかは分かりません。ま、この1週間がヤマじゃないですかね。じゃ」いつものように自分の言うべきことだけをバババーッと言うと、足早にY先生は去って行った。

なんだそのMRSAって。YMCAみたいなもの? 横文字だし、イケてるバイ菌? イケ菌?(←勘違い期)いやいやいや、待て待て待て。そういや昔、なんかで読んだか、聞いたことあるな。何だっけな。(←記憶取り戻しかけ期)ま、ろくに覚えてねぇってことは、大したことねぇだろ。うん、大したことねぇ。(←興味半減期)いやちょっと待て。発症したら3週間ぐらい余分に入院すんのかよめんどくせぇな……。(←倦怠期)……んー、でもなんかイヤな気持ちがするな。MRSAって、かなりヤバイ話だったような気がしたな。(←悪寒期)
うん、確かヤバげだった。かなりヤバババイんじゃないのねぇねぇ!(←不安期)

Y先生はすでにいない。仕方なく病室に持ち込んだPCを開き、ネットで調べてみる。エム、アール、エス、エー、と。

ゲ。
ゲゲゲ。

検索結果を一通り眺め終わった時の恐怖感は、底知れなさ度人生最大級であった。筑波サーキット最終コーナーにおける2度におよぶ転倒など、屁でもないことが分かった。MRSAは、かなり強靱で粘り強く、なおかつ恐るべき破壊力を持った細菌なのだ。ひとたび発症するとY先生が言っていた骨髄炎を始め、肺炎、敗血症、急性心内膜炎などなど、字面だけで卒倒しそうな感染症の原因になるらしい。ひょえー。

いろいろ調べてげんなりしたところに、追い打ちをかけたのがこのサイトである。バイクで事故って開放骨折した方の、MRSAとの激闘の記録である。10年前の記録だから日進月歩の医学界ではすでに遠い過去の遺物なのかもしれない。しかし同じライダーとして、同じスネを骨折した者として(原因はバイクじゃないけど)、同じMRSAが検出された者として、これほど強烈な情報もなかった。

ま、しかし、何事も経験だ。いいじゃねえか、骨を洗えばいいんだろう、骨を。右足の膝から足首までの区間は、かれこれ2ヶ月近く洗ってないから相当煮詰まったホームレス的茶褐色になってきてるけど、いいよいいよ、足洗う前に骨洗えばいいんだろう。

と、やけっぱちになる一方で、MRSAは常在菌(そこら辺にいるってこと)で、おそらくこちらのアナタからも、そちらのアナタからも検出されるものだ、ということも分かった。つまり悪ささえしなければ、恐るるに足りぬ菌なのである。眠れる獅子みたいなもんだ。シッポさえ踏まなければいいのだ。シッポさえ……。

オレの人生は一気にMRSAに支配された。食事の際は、「MRSA様、このお食事、お味はいかがでしょうか?」「む、悪くない」。しょんべんするにも、「MRSA様、トイレに行きたいのですが」「む、構わんが飛び散らかすなよ」。シャワーを浴びるにも「MRSA様、お湯加減は」「0.02度ほど熱いが、まぁよい」。「MRSA様、外に出たいのですが」「む、たまには風に当たるのもよかろう」「原稿を書いても……」「マジメにな」。もう何からなにまで、MRSAにお伺いを立て、ご機嫌を損ねないよう、細心の注意を払った(このあたり、医学的には何の価値もない情報となっておりますので、ご了承ください)。

処方されたのは、バクタという薬だ。強力無比なMRSAに対抗するだけあって、このバクタ、HIVポジティブの方が感染症予防のために飲むとかいう凄まじさである。怪獣が強ぇと、ヒーローも強くなくちゃいけないみたいな感じで、倍々ゲーム的に物事が大げさになっていくのだ。

直径8mmはあろうかという大粒のバクタを、朝・晩に2錠ずつ飲む。飲んだ直後に目まい、しびれ、動悸、息切れ、立ちくらみ、記憶喪失、解離性同一性障害、円形脱毛症、鼻毛過多症などに襲われる……こともなく、いや、正直鼻毛はボサボサだがそれはもともとであり、特に目立った副作用は出なかった。

しかし怖いモノ見たさで「バクタ 副作用」などというキーワードで検索すると、「警告:血液障害,ショックなどの重い副作用がおこることがあるので,他剤が無効または使用できないときにのみ服用すべき薬剤です」なんて出てきたりして、バクタはバクタでかなり強力だ。なんかもう、何から何まで破格な感じなのである。

年末年始は、消毒のため1日おきに病院に通った。MRSAにヤラれてるかもしれない患者すなわちオレへの消毒。完全えんがちょ態勢だ。診察室に入ろうとしたら、「こちらへ」と3重の扉を通り抜けて無菌室みたいな所に連れて行かれて、お医者さんはみんな目の回りだけ透明アクリルになってる真っ白い防護服みたいのを着て、お尻からダクトみたいなのが出てて、そのダクトが左手にぶら下げてる四角い箱みたいなのにつながってるような、そんなアウトブレイク状態……ではなかった。

フツーの診察室に通され、フツーのかっこした先生がフツーに診察して、チチチッとイソジンすなわち赤チンを縫合箇所に塗られるだけである。えええええぇぇぇぇっ!? 史上最強最悪最北端のMRSAって言われてるんですけども。赤チンて、簡単すぎやしないですかい?

休日担当の当直の先生は日替わりだったが、「MRSAが心配なんですけど」と言うと、どの先生も「こんなにキレイに治ってるなら、まず問題ないですよ」「MRSAが暴れてたら、傷口はこんな風にふさがらないから」と笑顔で応えてくれた。マジで? だ、大丈夫ってこと?

1月2日にはバッコウした。縫合はホチキス留めである。オレは紙かと。で、金属のホチキスを取るから、抜糸じゃなくて抜鋼と呼ぶらしい。先っちょがクリッと上を向いたハサミでパチンパチンと取っていくのだが、チュキュ、チュキュ、といやらしい痛みが走る。女子中学生って気に入らない誰かをトイレに連れ込んで、手の甲をちっさくつねりあげたりするじゃん? ちっさく。ああいう痛さ。それが18回。イラッと来る。

しかしいずれにしてもだ。バッコウバッコウ(2回言うとイヤラシイ)できるぐらい状態はいい、ということなのだ。ふん! MRSAなんか大したことねーじゃねーか! バーカバーカMRSAのバーカ! おまえのかーちゃんでーべーそー。あっかんべー! おしりペンペーン! と、強硬な姿勢でいた。

しかし……。

1月5日、主治医のY先生の今年初診察を受けたら「んー」「あー」とか言いながら足を見ているばかりではないか。「セ、センセ、ウチの子(←右足のこと)の様子は、ど、どうなんでしょうか……?」恐る恐るそう聞くと、「うん、分かんないですね」とキッパリ言われた。傷口の様子はいい。腫れもない。発熱もない。今のところ発症の兆しはまったく見られない。しかし、だからといって100%安全とは言い切れないのがMRSAなのだ、とY先生は言った。

「ま、足を切り落としたり死んだりすることはないから。せいぜい2週間骨を洗うだけ。そんなにビクビクしなくても大丈夫ですよ」

ガックシ……。

それからさらに日数を重ねているが、今のところ発症の兆しはない。まるでない。退院時に抜き去ったドレーンの先っぽからも、MRSAは出なかった。血液検査の結果も異常なし。正義の味方・バクタはほぼ1ヶ月近く飲み続けているが、それもあと2、3日で終わりだ。つまり「ほぼオッケー」という状態である。

しかし、これはオレが何か努力した成果ではなく、単なる偶然もしくはMRSA様の思し召しでしかない。自分の体なのに、自分ではまったくコントロールできないとは、本当に恐ろしいことだ。しかも、これでもう100%安全安心というわけでもない。MRSAの脅威が完全に消え去ったわけではないのだ。

だが入間市民よ、恐れる必要はない。我々にはこの脅威に立ち向かう勇気がある。勇気とは、脅威を殲滅することではない。脅威を理解し、咀嚼し、共に歩む道を探る。それこそが我々入間市民の血に脈々と流れ続ける、開拓者だけが持ちうる、真の勇気なのだ。

かつてこの地には、美しき武蔵野の雑木林があった。我々の祖先はその雑木林を開拓し、我々の繁栄の礎を築いた。我々はその労苦に、真摯さに、そしてためらうことなく流された夥しい血と汗に、感謝の念を忘れるわけにいかない。しかし一方で、木を切り倒し、大地を焼き払う時代が終わったことも、認識しなければならないのだ。ごく一部の繁栄のために多大なる犠牲を強いる余裕は、今の地球にはない。

いつか子孫が我々の選択に感謝できるような道を、選ぼうではないか。我々に危機を回避する知恵があり、未来に思いを馳せる愛があり、そして新たな道に踏み出す真の勇気があったことを、子孫に示そうではないか。入間市民よ、今夜がその第一歩なのだ。

と、オバマ化したところで、肝心の骨折については何も触れないまま終了。

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↑いつMRSAが暴れ出すか分からない日々。しかしまぁ、人生、そんなもんなのかな。常に何かが起こる可能性はある。それは数年後かもしれないし、明日かもしれないし、今かもしれない。自分の知らないところで進行している何かが、いつ、どんな形で自分の身に襲いかかってくるかも分からない。もちろん、何も起こらないかもしれない。要するに何も分からないのが人生なら、せめてこのボタンをクリックしてみるってのはどう? そしたら次回は骨折の経過について書くから。

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コメント

どもども、
しばらく音沙汰が無いと思ってたらMRSAですか。

それかどうかは知りませんが、骨髄炎はツライですよ~。今の医療ならチョチョイと治してくれるかどうか知りませんが、35年以上前は原始的なモンでしたナ。
術後も一部は縫合せずに、穴をあけておくんです。そこから毎日膿を吸い出すんですよ、チューブやら注射器使って・・・これがイテェの何の。
回診に来る先生によって、痛い痛くないが激しく違ったんで、子供ながら日々戦々恐々としてましたネ。

因みに小職は現在、定期的に鼻毛カッターで鼻毛処理してます。アレいいですよ。

お大事に・・・

投稿: webmaster | 2009.01.22 22:26

MRSAかぁ、大変だ。

ところで3月の筑ローには出られますよね?(^_^)
楽しみにしてますよ〜

あ、そうそう、一緒に遊ぼうと思ってNSF100買っちゃったし。

投稿: わだ | 2009.01.23 16:31

>webmasterさん
ああ、そんなイタタな話も可能性としては聞きました。今んところMRSAの脅威は「ほぼ」去っていますが、やだなぁ膿を吸い出すって。やだやだ。ホントやだ。鼻毛カッターの方がよっぽど前向きですよね? ですよね?

>わださん
げ。4月じゃねぇんですかい? と思って筑波HP見たら、確かに初戦は3月の第2週でゲスね。ほひょー! ……出られなくはないな(ニヤリ)。いいッスね、NSF100! もてぎの本コースを走るのに最適ですよ。

投稿: ごう | 2009.01.26 19:01

元気そうで良かった
んじゃまずは2月のダートトラックパーティでお会いしましょう。
んで3月の筑ローで、そのあとはヒデヨシさんもツナギ買うそうなのでNSFで遊びましょう。

最近、モトクロス始めました(^_^)

投稿: わだ | 2009.01.26 20:29

>わださん
ヒデヨシはずいぶん前から「ツナギ買う」と言ってるから、また買わないでしょう。NSF、いいッスね。つうか失礼ながら、わださん乗れるの? モ、モトクロス! また足に荷重がかかりそうな悪事を……。

投稿: ごう | 2009.01.30 22:02

乗れるかって?そりゃまたがれるさ。
走れるかって?多少は動くはず。
シートフレームとタイヤが干渉するかもしれんが(^^;

ほっといてくれw

投稿: わだ | 2009.02.04 15:51

>わださん
いやっ、そのっ、またがれるんだ(笑)。シートフレームが干渉っていうか、折……。

投稿: ごう | 2009.02.11 20:34

うぇーーん
でもレギュレーションで補強しちゃいけないって書いてあるんだもーーん
5cmロングのシートカウルはちゃんと注文したもん
タンクだってお腹に合わせて潰すもんーーーっだ

投稿: わだ | 2009.02.11 22:59

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