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決めるのはオレだった

スネの骨がバッキリ折れるなんて、オレは骨粗鬆症か?

と思ったが、実はよく折れる骨らしい。……そうなの?

実際、我が病院にはスネ骨折で数人が入院していた。主治医のY先生いわく、「まぁよく折れる骨ですよ。バイクの事故で来る人は、たいていスネを折ってるしね」とのことだった。「そうなんですかー。実は僕もバイクに乗るんですよ。主にサーキットですけど」と言うと、「え? サーキット? そりゃ転んだらスネの骨折どころか、死んじゃいますよ」と無邪気に笑うY先生。

ちょっと待ってよYちゃんよー。オレはサーキットで何度も転がっているが、骨折どころか、軽い打ち身しか経験したことがない。公道よりサーキットの方が安全なんだよ〜。

と、アピールしたいところだが、かつてノリックに「転んだけど無傷だったよ」と言ったら、「いやー、タイムがショボいと転倒のダメージもショボいんですね。知らなかった。ダッハッハ」と笑われたことを思い出した。

公道よりは安全なクローズドコースと言えども、タイムアップすなわちスピードアップに比例して転倒のダメージは大きくなる。Y先生には反論せずに、寂しく微笑むにとどめておいた。

そのように、整形外科的には折れやすいとされるスネの骨、頸骨。ライダーにとっては骨折頻発部位らしいので、少し詳細に書いてみようと思う。

頸骨を骨折した場合、髄内釘と呼ばれる金属棒を折れた骨の中にブッ刺して整復するのが一般的だ。骨はちくわのような中空構造で、その内部空間にチタンとかステンレスの棒をブチ通す、ということらしい。ただブチ通すだけではくるんくるるんと回旋してしまうため、上下2本ずつ横通しでボルト留めする。整形外科って、現場合わせで物事を進めるあたりが、大工さんとか整備士さんっぽい。

しかしオレの場合、骨折部を中心に皮膚が壊死し始めており、それがどこまで進行するか分からない状況だった。開放骨折(=複雑骨折)ではないが、スネの場合、骨が皮膚直下にあるため、もし壊死が進行すると速やかに開放。感染症とか骨髄炎とか、文字面的にもかなりヤバそうな事態に陥る。なんつってもバイ菌系は怖い。……バイ菌の「バイ」って何だ? 倍? by?

手術前、Y先生からは3つの選択肢を提示された。

(1)皮膚の治癒を待ち、髄内釘を入れる。
(2)皮膚の治癒を待たずに、髄内釘を入れる。
(3)皮膚の治癒を待たずに、創外固定器で骨を留める。

(1)最も穏当なハト派的手段。しかし皮膚の経過はどうなるか分からず、ゆえに入院期間がまったく読めない。また、髄内釘を入れる手術を行えるまでは、シーネ(副え木)で簡単に固定するだけ(皮膚のためにもガッツリとギプスを施せない)で、スネ下若干ぶらんぶらん状態で過ごすことになる。

(2)ハイリスク・ハイリターンの一発勝負。髄内釘を入れてから皮膚の壊死が進行した場合、骨が剥き出しになり、すなわち挿入した金属部分も剥き出しになってしまう可能性があって、感染のリスクが非常に高い。が、もし皮膚の壊死が進行しなければ、最も早くコトが済む。

(3)ソーガイコテーキって何ですか? ボルトオン装着することで、体外から骨を留める医療器具のことだ。これにより、皮膚と骨折の問題を分離。いち早く骨折部を整復することで皮膚の回復を促す、という方法。ただし骨癒合は、髄内釘より時間がかかるとされる。

オレの場合、先が読めない(1)はイヤだった。骨折が当面放置されるのもイヤだし、それじゃあ皮膚の治りも遅いだろう。かといって、(2)で博打してる場合でもないような気もする。(3)のソーガイコテーキは、まったくソーテイしていなかった。Y先生は「こんなの。見といてください」と、メーカーのカタログを置いて行ってくれた。

小林メディカルのカタログには、「エクスカリバー固定器」なんて書いてある。エクスカリバー……。R.P.G.に出てくる、高くてなかなか買えない剣みたいだ。聖剣だ。体にくっつけるのが聖剣なら悪くない。早い話、ボルトがお肌を直接貫通し骨にネジ留めされるわけだが、サイボーグみたいでカッコいいじゃねぇか、と、半ば強引に思ったりもした。

若干エグ目の小林メディカル・エクスカリバー固定器のWebはコチラ。上から4番目のエクスカリバー・アーティキュレイティッドアンクルを装着することになる。アーティキュレイティッドアンクル聖剣である。なんか知らないけどイケてる。

だが、何しろ聖剣装着は初体験なので、どんな不具合が起こるのか分からない。火焰系モンスターには効かないかもしれない。とりあえずズボンはベローンと裾が広くないと履けないだろう。パンツもビローンと広げないと履けないのではないか。パンツ伸びちゃったらどうすんですか!

また、骨癒合に時間がかかる、というのも気がかりだ。骨は少しずつ荷重(体重)をかけることで癒合が促進されるわけだが、創外固定器装着状態であまり派手に荷重をかけると、ボルトオン部の骨の穴が広がってしまい、ユルユルになる恐れがあるそうだ。ユルユルになったらどうすんですか!

Y先生は、「とりあえず創外固定器。で、皮膚の経過と骨の付き具合によって、改めて髄内釘を入れるって手もありますよ。めんどくさくなきゃ、創外固定器のままでも治るしね」と言った。永田町的問題先延ばし術、である。

そして「どっちみち今すぐには決められないでしょう。何でも対応できるように、髄内釘も創外固定器も用意しときますから。皮膚の回復を待ちたければ手術キャンセルでもいいし。明日の朝までに決めといてください。じゃ」と、颯爽アッサリ風味で立ち去って行った。

「明日」とは、手術当日のことである。ふうん、当日朝でも対応してくれるんだ。そっかそっか。……ん? えーーーーーっ! ちょ、自分で決めるのー? マジで? そんな、オレの人生の重大事を、オレに決めろっての? やだよそんなの。オレ骨のことなんかよく分かんないし。基本的に他力本願なんだから。主治医が決めてくれりゃいいよ。その方が、後からとやかく文句言えるし。

しかし先生はもういない。翌朝、「決めた?」とノーテンキな先生に、「えと、あの、じゃあ、創外固定器で」とオレは答えた。ファミレスの注文じゃねぇんですけど……。

中学1年生の時の右肘骨折で、髄内釘は経験している。26年も経って、同じことをするのも能がない。創外固定器なんて、こんな機会でもなきゃ取り付けることもないだろう。やったことがないから不安もあるけど、何でも経験だ。とりあえず創外固定器を付ければ、少ないリスクで一歩先に進むことができる。待つのはイヤだ。

そんなことを伝えると、「うん、僕もそれがいいと思うよ。じゃ、そういうことで」と、あくまでアッサリ風味のY先生。この人、すぐ立ち去ってしまうのだ。

ちなみに、スネを通っている太い頸骨と細い腓骨の両方が折れているのだが、整復するのは体を支えている太い頸骨のみ。「え? 腓骨はどうすんですか腓骨は」と聞いた時、Y先生はレントゲンを見ながら「放っときましょう」とアッサリ言い放ったものである。

「ええーっ! こんなにサックリ折れてる骨を、放っとくんですか? 腓骨にだって権利があるんだ! 腓骨の被治療権を守れーッ! 腓骨の被治療権をまも……」「ココが折れてる分には何も影響ないから。ま、くっつけばめっけもんだし、くっつかなきゃくっつかないで、全然問題ないんですよ」

高校の時、クラスでまったく注目されておらず、とかく存在を忘れられがちな超地味男・Mくんが、暗い声で突然こう言ったことがあった。「オレはパセリみたいなもんだな」。「な、何だよいきなり。どういう意味だよ?」と聞くと、彼はメガネの度が強すぎてちっちゃく見える目をさらに細めながら答えた。「パセリ……。皿に乗ってても、誰も食わない」。あまりに的確にして冷徹な自己認識。誰も否定できなかった。この時から、Mのあだ名は「パセリ」になった。Mは、ちょっとだけうれしそうだったが、ほんの数日で、そのあだ名さえ忘れられた。

腓骨=パセリ。

以下次回。

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↑ライダー連中は、骨折ぐらいじゃ驚かないタフガイだらけだ。「いや〜、スネの骨折っちゃってさ」「そうなんだ。オレもさぁ……」「手術前はこんなことするんだよね」「そうそうそう、オレもさぁ……」「手術後は」「ああ、アレだろ? そうなんだよな。オレもさぁ……」「リハビリは」「オレもさぁ……」「あの」「オレもさぁ……」と、全面的に「オレもさぁ」状態で、全然オレの話を聞いてくれない。ケガに慣れてりゃいいってもんでもないけど、なんつうか、みんな男の子っぽくていいね。ちなみにオレは、中1の時の右肘、大学生の時の左鎖骨に次いで3回目・計4ヵ所の骨折。つまり1人4回のクリックってわけだ。

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コメント

すげー骨折でランキング1位だ。

サクっと治してねんど山いって遊びましょう〜
早く治さないと雪降ってきちゃうもん

投稿: わだ | 2008.11.28 11:20

つっ~事は、今剛さんに会えばもれなく創外固定器も拝めちゃうんですね。
見てみてぇ~
僕は大腿骨しか骨折した事ないので、スネの痛みは分かりません。分かりたくもないし・・・
病院にもよるんだろうケド、救急車からいきなり病室(4人部屋)に運ばれて、そこで応急処置されました。
マキタの電動ドリルみたいなヤツで、右膝に横から穴をあけて串刺しにするんですな。んでそれに棒を通して、その棒に蹄鉄みたいな部品を組み合わせて、引っ張って固定。ハイ終わり。みたいな・・・
部分麻酔もしてくれないんだ。病室で聞こえてくるべき音ぢゃなかったね。

投稿: webmaster | 2008.11.28 12:58

ごうさん、大変でしたね。その後、具合はいかがですか?
私(P)は、約5年間手術室勤務だったので、ごうさんの書かれている事がよ~くわかります。
本当に、整形外科の手術は「大工さん」です。
ノミにハンマーにボルトにプレート、髄内釘、ペンチ、ニッパ等々・・・・。
整形の手術は結構、力技だったりします。
以前Norickに「これ、なんだかわかります?」
と見せられたプレートを、「骨を固定するプレート」と即答したワタシ・・・。

手術前の浣腸も、カテーテルも、ついでに剃毛もよ~くわかります。
(施行する立場で・・・。)

投稿: にーさん&Pちゃん | 2008.11.28 17:52

俺が左手小指に付けた創外固定は小さくてかわいかったよ。
・・・まるでゴウさんのカテーテルジュニアのように(笑)


・・・お大事に。

投稿: しの(黄六2号) | 2008.11.29 01:03

>わださん
うーむ残念ながら雪が溶けるぐらいまではバイクには乗れないような気がするけど、もうちょっと早く乗れるように頑張りたいです。

>webmasterさん
見たい? 見たい? 見たいですか? 見せちゃおっかな〜。へへ。スゴイっすよ。本人は見飽きたけど、初めて見た人はみんなドン引きです。

>にーさん&Pちゃんさん
中1の時の右肘骨折時は局部麻酔だったので、「ニッパー!」「ペンチ!」「ドリル!」「ブイイイイィィィガリゴリガリゴリゴリ」みたいなのが全部聞こえて来るわ、痛ぇわで、大泣きしながら看護婦さんの手を握りしめてました。しかし知り合いの看護婦さんに面倒みてもらうのも、シビレそうですね……。

>しのさん
小指か……。いい勝負だな……。


投稿: ごう | 2008.12.04 20:26

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