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楽しい草レース その2

さて、前回ただのスポーツ走行についてむやみに熱く語ったところで、ようやくレースの話である。

勝負しなけりゃ負けもしない理論
え? それがすでに負けですと?

サーキットを走り始めてから初レースまで、オレの場合は1年かかっている。必要以上に負けず嫌いなオレは、「出るからには勝ちたい」「勝てないうちは出ない」という実にシンプルな2段論法に則り、レースに出たくなかった。

筑波ツーリスト・トロフィーでデビューウイン&卒業タイムクリアで即筑波選手権にステップアップ、選手権でも当然デビューウインで即全日本、そしてシーズン半ばからMotoGPに行けないのなら、レースに出る価値はないと思っていた(半ばマジ)。

勝てない勝負はしない。だから負けもしない。ロジックとしては完璧である。……はずだった。だから後に、親友カメラマンのヒデヨシに「勝負しない時点で負けじゃね?」と鋭く指摘された時は、マジでビックリした。あまりにもその通りだったからだ。

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そんなわけで「ふーむ負ける勝負もしないといけない時があるのかなあ」とあまり納得していないまま、前回書いたように半ば強制的にレースに出ることになり、'05年10月の初レースは決勝9位でもちろん勝つことなんかできなかった。しかしタイムは当時の練習ベスト1分6秒4から1分5秒7に上がり、何よりも「あ、オレでも頑張れるんだ」という自信が持てた。

「淑女の雑誌から」を思いつつ
走ってみたりするスポーツ走行

ここら辺は人によって個人差があるようなので、あくまでもオレの例として読んでほしいのだが、オレはレース当日には全然緊張しない。前日まではすげー緊張する。死んじゃったらどうしようとか思う。Macの奥底に格納されている人に見られては困るあのファイルやこのファイルはどうしようかと。でも、いざヘルメットをかぶりグリッドに着いてしまえば、ちっとも緊張しないのだ。

かと言って、いつものテンションかというと、決してそうではない。「今行かねーでいつ行くよ!」と、踏ん張れるわけである。前回書いたように、今までよりちょっとブレーキングを頑張って、今までよりちょっとバイクを寝かせて、今までよりちょっと早くアクセル開けるのだ。

最初のレースの最初の予選からそれができたのは、「これこそオレがサーキットを走る目的であったか!」と気付いたからだ。同じコースを走っているのに、練習とレースでは見え方が違った。練習走行はあくまでの練習であって、本番はレースなんだ、と思えた。

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↑練習の時は「この後は都内で取材だし、転ぶわけにはいかないよなー」とか、「帰りコンビニに寄って週刊文春買って『淑女の雑誌から』を読まないと」とか、いろんなことを考えている。

走りに関しても、「ここをあーしないと」「あそこをどーしないと」「あ、前の人オレのと同じバイクだ」「お、この人の走りはどうだ」とか、さまざまなことが脳裏をよぎる。実際にあっちを見たり、こっちを見たりして、よく言えば周りに注意していることになるが、悪く言えば入り込めていないのだ。

集中して走っている時は
「淑女の雑誌から」さえいらない

でもレースは予選からまるで違う。視界がものすごくクリアになって、コースがよく見える。やるべきことは「速く走りゃいい」と明確で、心の中がスッキリしている。もちろん無の境地というわけではなく、「だーっ! ミスッた!」とか「うおー、もうちょっと!」とか「チキショー、うまく行かねぇ!」とか、そういうことは思うけど、練習で積み重ねたことを何とかヒリ出そうとするだけで、晩飯のこととか、明日のこととかは一切考えない。

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↑予選の走り。たぶんエロスなことは考えていない。

つまりそれが、「集中している」ということだ。レースの時の集中度合いは、練習走行の比ではない。他のことを考えないで済む気持ちよさは、レースでしか得られないものだ。公道をフッ飛ばしているのともまるっきり違う、ひどくシンプルな時間。雑味のないキレ味のよさ。まるでビールの広告コピーのようだが、オレはビールが大嫌いだ。それはともかく、初レースで「あ、オレはレースが好きだ」と思えたのだった。

物事は、最初の一発でだいたい決まるものだ。あいや一発って、その一発じゃないよ。春だけど。人間同士で言えば初対面の第一印象は後々まで大きく影響するものだし、仕事で言えば最初のコンセプトワークの段階でフィニッシュが決まる。ことが多い。……必ずしも100%とは言えないが、まず最初の一撃はとても大切だ。

だからオレにとっては、人生初2輪レースの'05年10月筑波TTは、タイムも順位もへっぽこだったけれど、今でもとても大きな意味を持っている。あの時に、「あ、レース好き」と思えたのは、実にラッキーであった(「その3」で書くが、レースが好きだと思えたのには、もうひとつ、とても大きな理由がある)。

わんわんおいおい泣いたけど
GOと言われりゃ行くしかねぇ

今回の筑波TT、予選でオレは全ッ然集中できなかった。すげーみっともないからこの話を書くのはイヤなんだけど、予選出走直前に、わんわん大泣きしてしまったのだ。

予選直前、ウェイティングエリアでみんながオレのマシンを準備してくれていた。てきぱきとしたみんなの様子を見ながら、「レースに出るべきなのはオレじゃねぇ」と感じた。「なんでノリックじゃねぇんだよ」と。

草レース世界最高峰とはいえ、ノリックが筑波TTに出るはずはない。そういう意味じゃなくて、やっぱり彼こそレースに出るべき人なんだ、と思ったんだ。レースというフィールドは彼のためにあって、彼はレースの中でこそ生きるべき人だった。ノリックは、サーキットを出ちゃダメだったんだ。「それなのにオレなんかがレースに出て、なんだっつうんだよ……」。そう思ったら、涙が止まらなくなった。悲しいとか寂しいとかじゃない。悔しくてたまらなかった。

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↑ゴミ箱に寄りかかって大泣きする38歳。……どうなの? それをしっかり絵作りしてるヒデヨシもどうなの?

ヒデヨシが声をかけてくれた。彼はノリック公式HP用にたくさん写真を撮ってくれている「ノリック公認カメラマン」だし、もちろんオレとノリックの関係もよく知っている。ヒデヨシの顔を見た瞬間に、さらに思いがあふれた。

ヒデヨシの肩にしがみついて、オレはしゃくり上げて泣いた。出走直前にライダーが泣く姿を見せるなんて、「やってはならないことベスト3」に入るだろう。みんなが心配するだろうし、何にしてもみっともない。でも、どうにもならなかった。

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↑それでも時間は来る。GOと言われりゃ行くしかねぇ。予選が始まった。泣きやんでから走り出したし、走行中は泣かなかったけれど、ふだんの練習ではあり得ないようなミスを連発した。ブレーキングミス、シフトミス、オーバーラン。ありとあらゆるミスをしたが、不思議と転ぶ気だけはしなかった。「ぜってぇ曲がれる!」と、それだけは確信していた。

筑波TTは4回目だが、こんなにとっ散らかったのは初めてだった。予選を終えてテントに戻ると、「なんだよ! なんで転ばねーんだよ!」と、また涙が噴き出た。「ノリックに守ってもらった」なんて、そんな迷信みたいなことは考えたくもない。「オレのスキルが上がったから転ばずに済んだんだ」「ダートトラック修行のおかげだ」と思いたい。でも、「守ってもらったのかな」と、どこかで感じる。もう、ぶひぶひと泣き続けた。

そんなぐちゃぐちゃな中でも、1周だけ手応えのあるラップがあって、その周が予選中の自己ベストタイムだった。自分で分かる。「ん、この周かな」と。精神的にまったく落ち着かず、走りもタイムもダメダメだったけど、「ん!」と分かる周を1周だけ作れたことで、「やっぱりレースだな」と思えた。

バックストーリーを知れば
何だってもっと面白いはず

相当個人的な話になってしまった。しかし草レースとはいえ、各ライダーとも、こんな風にそれぞれいろんな思いを抱え、あるいはいろんな目標を持って、レースに出ているということを知ってもらえれば、恥をかいた甲斐があるというものだ。

例えばヒデヨシは、オレとノリックの関係をよく知っている。チームクルーを務めてくれたみんなも、知っている。だからオレがわんわん泣いていた時、ヒデヨシはオレの肩をそっと優しく抱きしめてくれたし(オエ)、クルーのみんなも「しょうがねぇなぁ泣き虫はよ!」と、さっぱりとした感じで遠くから見守りつつ放置してくれた。

友人知人が出る草レースの魅力は、そんな所にもあるのではないか、と他人事のようにオレは思う。ライダーがレースに出るにあたってのバックストーリーを知っていることが、レースを見る面白さにつながっているはずなのだ。その直結度合いは、友人知人だから当たり前なんだけど、直接ライダーと話ができる草レースならではじゃねーのかと。

だからもし周りに草レースをやっているという人がいれば、「んだよ草レースなんか見てられっかよ」と言わずに、ぜひサーキットに足を運んでもらいたいし、草レースをやっている人は、できるだけ多くの人をレースに呼んで、たくさん話をしてほしいな、と思う。自分がなぜこのレースに出るのか、何が目標なのか、そしてレースの何が面白いのか……。うまく言葉にならなくても、きっと思いは伝わる。

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↑同じように見えるマシン。顔が見えないライダー。でも、この1台それぞれに、いろいろな思いが込められている。

逆に言えば、全日本ロードレースが盛り上がらない(と言われている)ことの原因の一端に、「どんな人が走ってるのか、よく分かんない」ということもあると思う。ライダー誰それのセッティングがどうとか、タイムがどうとか、コアなロードレースファンにとっては重要な情報かもしれない。でも、多くの人にとっては、「それよりどんな人が走ってんのさ?」ということが知りたいだろうし、知れば「応援してみたいな」と思えるライダーもいるはずだ。

レースに限った話じゃないけれど、プロフィールをなぞって拡大するだけのインタビュー記事なんて、何ひとつ心に残さない。読み終わっても結局は「どんな人なのか」がまったく伝わってこない、さらりとした記事だらけだ。やっぱさぁ、オレは思うわけ。だいたいインタビュー記事っていうのはさあ、バンバン!(←机を叩いている)インタビュアーがどんだけインタビ…………、あ……? ごめん。全然関係ない話になってきた。やめた。終わり。

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↑レースの話はもう1回。

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コメント

いいねぇーー
17才の頃のアタシに言い聞かせてもらいたかったよ。

投稿: わだ | 2008.03.29 20:47

流石に良いこと書くよね。
あの日の事を見事に言葉で表現している。
つい入り込んで今頃になって涙ぐんだよ。

俺をロードレースから開放してくれたノリックには感謝しているし、そのノリックとの橋を掛けてくれた剛君にも感謝しています。

俺にも未だ出来る事が、やり残している事があるんだって気付かされて やっぱり感謝だよ。
ちきしょう、ありがとう。

投稿: 関東ダートトラック普及委員会・吉田 | 2008.03.30 12:15

>わださん
オレも16歳の頃のオレに言い聞かせたいですよ!

>関東ダートトラック普及委員会・吉田さん
熱いぜ吉田さん! その情熱を普及活動で存分に発揮しまくってくださいね。ダートトラック、やっぱりすげぇ役に立つことが分かったし。

投稿: ごう | 2008.04.07 15:44

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