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JSB1000、筑波。第1ヘアピン

 レース序盤から阿部典史の進入はひどく不安定で、ある時は後続が追突しそうなほど極端に減速し、ある時は止まり切れず大きくはらんでいた。

 阿部が左足のシフトペダルを操作すると、マシンが時折「カカカッ」という音を立てる。ミッションにトラブルが発生していた。
 秋吉耕佑は、檻の中に閉じこめられた野獣のようだ。あふれ出る気迫を隠そうともしない。筑波サーキットは彼の放つ熱量を収めるには狭すぎるようだった。もちろん先行者の不安定さを見逃すはずはなく、阿部がアウトにはらんだ瞬間に躊躇なくインを突いて前に出た。

    ◆

 その隙に乗じて阿部をパスしようと試みたのは、手島雄介だった。しかし24歳の若者に、秋吉ほどの気迫はなかった。アウトから鼻先をかすめるようにして、阿部は手島を押さえ込んだ。
 しばらく後、阿部が再び止まり切れずコースアウトしそうになった24周目に、背後につけていたのも手島だった。通常のラインを通っていた手島にとって圧倒的に有利な状況だ。ここで阿部をパスすれば、残り3周という絶妙なタイミングで表彰台圏内に入ることができる。
 しかし阿部は、再び手島の鼻先ギリギリを押さえつけた。1回目よりもさらにきわどいかぶせ方だった。躊躇した手島はとっさにマシンを起こして減速し、阿部を抜くどころか後続の山口辰也の先行を許した──。

    ◆

 阿部をパスした後も秋吉のペースは上がらず、2人の接戦は続いていた。阿部はタイヤのグリップダウンを感じていたが、前を行く秋吉のタイヤが滑っていることに気付くと、自らもタイヤを滑らせながら直後につけ、最も不安定なはずの第1ヘアピンで幾度となく秋吉のインに頭をねじこもうとした。
 ミッションにトラブルを抱えて進入速度が定まらず、何度もコースアウトしかけていた筑波サーキット・第1ヘアピン。自らが秋吉に抜かれたその場所で、秋吉を抜き返そうとするのだ。
 2人の競り合いからは、もはや何も感じられなかった。作為も、駆け引きも、ためらいも、意地すらも見えない。前に出る。前に出さない。ただそれだけのさっぱりとした意志が延々とぶつかり合っていた。
 結局、阿部は秋吉の後ろでチェッカーを受けた。6年ぶりに表彰台に立った後、彼は「秋吉さんとのバトルに負けた悔しさの方が大きい」と言った。

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